2008年05月02日

初心

初心について、ちょっと考えてみました。

080502_1.jpg

世阿弥の著作に風姿花伝があります。本棚にあるはず
なのに探しても見当たらないので購入しました。岩波
文庫の青1−1です。ちなみに、岩波文庫の白1−1は
人権宣言集、黄1−1は古事記です。

080502_2.jpg

    時分の花を誠の花と知る心が、真実の花に
    なほ遠ざかる心なり。ただ、人ごとに、
    この時分の花に迷ひて、やがて、花の失するをも
    知らず。初心と申すはこの比のことなり。

           風姿花伝 年来稽古條々 二四、五


世阿弥は、初心に関しては花鏡にて詳しく書いています。

    初心不可忘 此句、三ヶ條口傳在。
      是非初心不可忘。
      時々初心不可忘。
      老後初心不可忘。
                花鏡 奥の段

 修行を始めた頃の未熟な初心の芸、その後の修行の
各段階に経験する芸の未熟さ、そして老境に入った時の
屈辱感…。世阿弥は未熟な時代の経験や、ぶざまな失敗や
屈辱感を忘れないように「初心忘るべからず」という
言葉を通して、常に自らを戒めて慢心に陥らないように
説いているように思います。

 未熟、屈辱、失敗、ぶざま…そのネガティヴな初心を
心に留めることこそが、時分の花から真実の花へと至るpath
であると…。



 与謝野晶子の歌に
     「その子二十櫛にながるる黒髪の
      おごりの春のうつくしきかな」

                 みだれ髪

 晶子が美しいと感じた二十歳の黒髪、その春の美しさを
世阿弥は「時分の花」と称しています。おごり(奢り、驕り、
傲り)に留まっていれば「真実の花」に至ることはないと
説く世阿弥。そしておごりの春を謳歌する晶子。

 ・・・永遠と一瞬の違いでしょうか?
posted by student at 22:47| 日記